高田裕介
Photo: Kunihiro Fukumori
Photo: Kunihiro Fukumori

La Cimeの高田裕介が語る「香りで世界に打って出る戦略」

「守りに入った料理にイノベーションはない」

Genya Aoki
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近年、グルメタウンとして世界から注目を集める大阪。「粉もん」やうどんといったカジュアルフードが目立つ中で、2010年に高田裕介がオープンさせたレストラン「La Cime(ラ シーム)」は特異な存在だ。大阪から唯一「世界のベストレストラン50」(2025年)に選出され、日本でも指折りのガストロノミーとしてその地位を確立している。

記憶に残る食体験への挑戦

同店のコンセプトは「稽古照今」。古典を深めつつ現代の技術で「いま」を照らす姿勢で、西日本と自身のルーツである奄美の素材に、フレンチの技法を組み合わせる独自のスタイルを貫く。

高田が目指すのは「記憶に残る」食体験の創造だ。その核となるのが「フレーバー」、特に香りの演出である。3年前に東京で香りとのペアリングを試みたが、時期尚早だった。「何でもネットで見られる時代だからこそ、感覚という部分で人のポテンシャルを引き上げたいですね」と語る。

視覚情報が氾濫する現代において、嗅覚という原始的な感覚に訴えかける試みは、世界に打って出るための武器になると考えている。「香りはスピリチュアルな要素があり日本的でもあるし、食べ物と組み合わせる装置さえあれば世界中どこでも作り出すことができます」(高田)

もう一つのこだわりが「温度」。日本人は熱いものが好きだということにいち早く気づき、60度近い温度で提供することで、「アツアツ」だと感じるだけでなく、香りが広がり、料理の表情を変化させる。

このほかに重きを置いているのが、顎を動かすこと。「みんな食べやすいものばかり食べている。かむことによって唾液も出るし、頭も働きます」と語る。現代人が失いがちな「かむ」という行為に着目し、食を通じて人間の本来の機能を呼び覚ますことを目指している。

La Cime
Photo: Jun Kozai

日本が世界に誇れる食文化

日本の食材管理技術は世界一だと高田は断言する。「品質管理の状態は本当に世界最高峰だと思います。漁獲後の処理技術も近隣諸国とは異なるようで、その証拠に韓国のシェフ仲間はわざわざ築地まで買い付けに来ています」。それほど、日本の食材流通システムは優れているのだ。

地産食材については、「和牛や魚介、ハモなど淡路島や瀬戸内海を含めた食材は良いものが多いですね」と、西日本の食材を評する。

調理機器に目を向けると、高田は堺の「馬場刃物製作所」の包丁に信頼を置く。「形が持ちやすい」という理由だが、分業制で作られる日本の職人技への敬意も感じられる。また、「ベンリナー」というスライサーは20年以上使い続けており、世界中のレストランでも使われている日本が誇る逸品だ。ニッチなところでは、ステンレスバットも、サイズ展開の細かさが外国人シェフに人気で、わざわざ買って帰る人も多い。

La Cime
Photo: Jun Kozai

大阪の課題

しかし、大阪の食材流通に目を向けると課題がある。この街は商人の街として栄えてきたため、慣習的に安く買うことに重きが置かれており、それは時に良質な食材が同地に集まるのを阻害してしまうのだ。

「なにわの伝統野菜」と呼ばれる大阪産の野菜についても近年扱う業者が増えてきているが、良い食材は東京に流れてしまい、地元に残らない現状を高田は憂う。「予約の取れないレストランと一緒です。少ないからこそ欲しくなる。そういうブランディングが必要ですね」

安価で良質なものが食べられるのは大阪の素晴らしい文化だが、急激に街が国際化する中で、世界で評価されうるポテンシャルを秘めた生産者やシェフが生み出した付加価値に対価を支払う風土の変化が今、求められているのかもしれない。

La Cime
Photo: Jun Kozai

変革への思い

高田の問題意識は、日本の料理界全体にも向けられる。「南米や東南アジアの進化のスピードは目を見張るものがあり、日本は乗り遅れています。ペルーで訪れたレストランで、何もない環境で10皿以上のコースを完成させる創造力に衝撃を受けました」

高田は、イノベーションを続ける料理人こそが評価されるべきだと考える。「守りに入った料理にイノベーションはありません。日本のフードシーンが変わるには、挑戦する側にもっとフォーカスが必要です」。個人経営が多く、スポンサーがつきにくい日本の料理界において、資金調達の仕組みづくりも課題だという。

同じことを繰り返すのが嫌いだと語る高田。「定番料理を求めるのは楽だけど、そうじゃないレストランがあってもいい」。La Cimeは、15年間変わり続けることで、変わらぬ存在であり続けた。

「みんな説明し過ぎなんじゃないか、と思います。自分で考えてもらう方がいい」と、現在の飲食業界の傾向に疑問を投げかける。彼の挑戦は、単なる料理の提供を超えて、食体験そのものの再定義であり、情報過多の時代における、静かな革命なのだ。

高田裕介

シェフ

奄美大島出身の1977年生まれ。フランスや大阪での修行を経て、2010年に大阪で自身のレストラン「La Cime」を開業。ミシュラン二つ星、大阪からは唯一「世界のベストレストラン50」および「アジアのベストレストラン50」に選出。日本ならではの食材とフランス料理のテクニックを融合させた革新的なフリースタイルフレンチの実力派シェフ。27年の経験を生かし、常に新しい料理の可能性を追求している。「QUOI」や「THE UPPER」なども手掛ける。

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